この丸メガネはミュージシャンなの?

音楽ブログを早々に諦め、ゆるめのサブカルブログへ男は舵をきった

音楽やろうぜ。とりあえず機材買おうぜ。

おれの始まりはエレキギター

さて。

とりあえず音楽やりたい。自分で音楽を作ってみたい。
そう思ったときがスタートラインだ。

よし。

さて。

よし。

うん、よし。

おれはかつて何度もスタートラインには立った。
しかし何から手をつけたら良いのかわからなかった。
何を買えば良いのかわからなかった。

で、「さて」やら「よし」やら言っている間に、ティーンエイジが終わっていた。
もちろん楽器はおろかピックの一枚も持たないままだ。


そして通算1000回目くらいの「よし」の後、おれはついに動いた。
友人の「とりあえず高いギターを買ったら、動くしかなくなる」という言葉を信じてた。

そしておれはギターを買いに、楽器屋(たしか池袋のイシバシ楽器)を訪れた。


おれはプレイヤーに憧れがあるわけでなく、ソングライティング、ビートメイキングがしたかった。
だからどちらかといえば、DAWを買ったほうが良いんじゃないかとも当時迷った。

だが周りにいた音楽連中でDAWを使用している奴らは、軒並み偏差値の高い顔ぶれだった。
対して、ギターを持っている連中のバカそうなこと。
そのメンツを見て、おれは勝機があるのはギターだと判断した。
あいつらにペラペラ弾けるんなら、おれにもできそうだ。
DAWに手を出すのはその後でも遅くない。

この選択が正しかったのか、間違っていたのかは、いまだにわからない。
ただこの一歩目で音楽制作の方向性は間違いなく左右されたのは間違いない。
日本語がおかしくなるほど間違いない。

おれは今かなりロック寄りな音作りの傾向にあるが、最初がDAWだったら、もっとEDMやヒップホップ寄りの音になっていたと思う。


イシバシ楽器の店内。
おれは、スタジオ入るまで時間があったんでブラッと楽器を見にきちゃいましたという設定の玄人顔を作って、吊るされたギター達を眺めていた。

はっきり言って超ワクワクしていた。
それくらい生で見るギターは、フィジカルな直感に訴える小悪魔的な魅力を放っていた。
Cubaseのパッケージを見てもこうはならないだろう。
やはり人は実存主義なのだ。

実存主義の使い方を完全に間違ったままギターを眺めるおれに、キツネがチャラい若者に化けたような顔の金髪の店員が近づいてきた。
「なにかお探しですか?」

おれのギターの知識の9割は漫画「BECK」で覚えたものだ。
しかも見事なうろ覚えだ。
要するにペラッペラの知識だ。
それぞれのギターの名前も特徴もよくわからないし、音もよくわからない。
平くんのベースがたてるペキペキという効果音が、実際どんな音を表したものなのかもよくわかっていない。

だがおれは誇り高き男だ。
ビギナーですと言うことは大和魂が許さなかった。
そしておれは、自然さを装い過ぎた不自然な顔でこう答えた。
「はい、ちょっとギブソンを」


店員「ギブソンのどれですか?」
おれ「−−は?」
店員「ギブソンのどれですか?」
おれ「−−は?」

今でこそわかる。
店員の質問はもっともだ。

だが当時、ギブソンがメーカーでなくギターの種類を表していると思い込んでいたおれにはまったくもって意味不明な質問だった。

まるでヒップホップの合いの手のように「Hah?」と声を出しながら、おれは徐々に自分が恥ずかしい状態になりつつあることに気づきだしていた。
同時に、店員の表情の中にも戸惑いが浮かび出していた。

とりあえずギブソンが一種類でないことは文脈から見て間違いない。
だがギブソンになんの種類があるのかわからない。
ああ帰りたい。

プライドを捨てて、ビギナーであることを白状しろ。
そして「初心者に一番オススメのギターはどれですか?」と身の丈にあった質問をしろ。
それが全員が笑顔になれる唯一の方法だ。

だが、おれの口から出た言葉はこれだった。
「時間がないので、また来ます」

おれはわざとらしく腕時計を見て、さらには「いっけねえ」とかいう小芝居も挟みつつ、楽器屋から逃げ出した。

もう一回BECKを読み直してからリベンジだ。