緊急事態宣言が出て1週間弱。
閑散とした都心の街は、静かな緊張感で満ち溢れている。
新型コロナウイルスの猛威が止まらない。
初めは漠然としていた不安感も、いまやくっきりと輪郭を持ち、重い鉛のように人々の心に暗い影を落としている。
他人事だとタカをくくり、お祭り騒ぎを継続していた人間たちも、遠い幻のように消えていった。
外出自粛の要請。
皮肉なほどに明るい春の日差し。
人は人との接触を神経質に避け、それは根深い拒絶反応は、もはや外に仕事へ行かざるをえない自らの家族へも向きだしていると聞く。
今後、コロナ離婚が多発するだろうとも聞く。
完全に異常な事態だ。
これからどうなるか誰にもわからない。
まさか私も1週間前には、下半身を露出しながら会社の会議に参加することになるなんて、夢にも思わなかった。
私の会社も、例によってばたばたとなし崩し的にテレワークへと移行した。
ライフライン系の職についている人など、外に出ざるをえない仕事をしている方々を思うと、これは非常に幸いなことだと思う。
思うのだが、テレワークという慣れない環境は、当初の予想をはるかに超えて、私の生活リズムを崩すものだった。
趣味と娯楽の脳内風景を具現化したような私の部屋は、自分専用のヴィレッジヴァンガード状態で、まったく仕事向きの仕様ではない。
そこで8時間の仕事による拘束状態。
まるで、ぬるま湯につかりながら冷たいコーラを喉に流し込むような違和感だ。
いや、喩えを間違えた。
ちょっと良さそうじゃないか。
まるで、マッサージを受けながら、ケツだけ女王様にハイヒールでぐりぐりされているような違和感だ。
いや、喩えを間違えた。
ちょっと良さそうじゃないか。
なんだろう。
これ以上、喩えが浮かばない。
とにかく、部屋で仕事をすることに脳が違和感を覚えて、それは3日目あたりからストレスと呼んでいいほどに、私の心をむしばみはじめた。
誰の監視下もない中で、どう処理していいかわからないとろ火で炙られるような不快感。
そんな時、人はどうするか?
脱ぐのだ。
嘘じゃない。
実際に脱いだ人間が言うのだから、断じて嘘ではない。
おれはいつしか裸でPCに向かうことに何の違和感も覚えなくなっていた。
『いつもお世話になっております−−』
クライアントとビジネス用語を駆使したメールを打つときも、表情は真顔で体は全裸だ。
そしてその麻痺した感覚は社内会議でも変わらない。
私の会社は各所から異議が出るほど会議が多い職場で、それはテレワークになれどweb会議という形で頻度を変えることなく続いている。
もちろん1on1の会議の際には、上半身だけは服をしっかり着用しているが、カメラをオフにしても問題ない多人数での会議のときは、服なんて着ていられない。
全裸だ。
コロナ影響による売上の低下、今後のヨミを厳かな声で語る上長の声を、私は深刻な顔で頷いて聴いている。
全裸で。
時にはマイクもオフにしてヒップホップを流しながら聴いている。
全裸で。
こんな異常な世界に誰がした。
新型コロナだ。
すべてはコロナのせいなのだ。
私が服を着られる世界が改めてくることを、痛切に願う。
最後になるが、万が一、私を女性だと思って読んでいた人がいるかもしれないので、クレームにならないうちに、はっきりさせておく。
私は丸メガネの男だ。
天パ気味の丸メガネの男だ。
以上だ。