この丸メガネはミュージシャンなの?

音楽ブログを早々に諦め、ゆるめのサブカルブログへ男は舵をきった

君がもののけ姫なら、僕は誰だろう?さよなら陣馬山

今週のお題「カメラロールから1枚」

陣馬山の頂上

 

前回書いた、真夏の最中に高尾山〜陣馬山の奥高尾と呼ばれる縦走路に挑んだときの話の続き。

dada9.hatenablog.com

 

前回のやつで陣馬山から下って帰宅するまで書ききるつもりが、すごい中途半端な位置で終わって気持ち悪いので、すっきり終わらせたく、おれは今しぶしぶタイピングを始めた。

それだけが執筆の動機なので、つまりは言うべき内容、書きたい内容なんて特にない。
もっといえば、写真も数枚しかない。

当時のおれは「大事な思い出なら鮮明に記憶に残る。記憶に残らないような思い出なら、それはカメラにおさめる価値はないということだ。よって私は写真を撮らない」という、とがった価値観の三段論法を掲げて、かっこいい気になっていた。
何かあるとキャーキャーiPhoneをかまえる連中の横で、冷めた視線を送る自分に酔っていた。

愚かだった。

おれはそんな大層な記憶力を持ち合わせてはいなかった。
特にここ最近顕著だが、頭の中の消しゴムがMONO消しゴムになったように、まあ公私ともに大事な記憶が消える消える。
もうなんか、消しあととか痕跡がないくらい綺麗に消失するのだ。

"あのとき、ちゃんと写真に撮っておけば良かったな"
そう悔やむことばかりだ。
しっかり反省して今後は積極的にキャーキャー言いながらスマホをかまえたいと思う。

 

陣馬山への道のり

陣馬山への道のり


話は戻って、今城山周辺

当時付き合っていた彼女にケツを叩かれながら、おれは山道を歩いた。
※この「当時付き合っていた彼女」の話を今するのは抵抗があるのだが、おれを含めた二名の登場人物のひとりなので、出さざるをえないというか、出さないとおれの道中の会話が夢遊病者みたいになっちゃうというか、友達と行った体にするとそれはそれでなんかドライすぎないかみたいな気分にもなって、まあとにかくそんな感じだ。
あとなんだか眠くなってきたから、こっからは巻きでいこう。


「高尾山から陣馬山へと初心者向きの縦走路となっています」
というサクッと感にだまされた感はあるほど、過酷な道のりだ。

上の地図でわかる通り、高尾山から陣馬山へいくには、
城山→景信山→陣馬山と、間に山をふたつ越えなければならないのだ。

これがきつかった。
体力はもちろんだが、精神的にきつかった。
登っていくだけであれば、登った分だけ達成感があるのだが、登った直後に下っていくのは、苦労して掘った穴をすぐさま埋めるという中世の拷問に近い苦痛がともなった。

陣馬山をゴールとして、かつ日があるうちに無傷で帰るが最大のミッションであるため、正直いって城山と景信山の展望や達成感を、心の底から楽しんでいる余裕はなかった。


おまけになんだろうな、8月の終わりという時期が悪かったのか、地図上にある売店がぜんぜん開いていないのだ。
休憩ポイントに着くたび、彼女と二人で廃墟化した売店の周囲を、おっさんのひとりでもいないかと探したが、マジで誰もいなかった。

売店の景色はこんな感じ※この写真は拾いものです

ただ、おれはこういういるはずの場所に誰もいないという非日常感をかなり楽しめる暗いタイプの人間なので、これはこれで良い思い出となった。

そしてまたゼーハー言いながら歩き出した。

そして陣馬山の山頂へ

もうひと夏分の汗をかいたのではというくらい汗をかいた。
かつてサマソニで調子にのりすぎて脱水症状になって以来、水分のなくなった時の肉体の怖さは誰よりも知っている。
おれは自分と彼女のペットボトルの残量を彼女にうざがられるほど神経質に計算しながら歩いた。

アップダウンのある道を歩いて歩いてまた歩いて。
たしかに断崖絶壁をのぼるとかはないので、この縦走路は初心者向きといえば、初心者向きかもしれない。
ただ、確実におれ向きではない。
そもそもおれは山向きではない

途中途中に視界が開ける箇所はあっても、基本的には下の写真のような道の連続だ。

あれ、ここ2時間前にも通ってない?
みたいな変化のない道が続き、おれの意識は朦朧としてきた。

進めどもこれ

疲労でカメラもぶれるよ、そりゃ

疲労を感じているのは彼女も同じなようで、
最初の頃はとりとめのない会話だったものが、
「のどかわいた」
「つかれた」
「帰りたい」
「けど帰るのも遠い」
といった不満を因とした感想に変わり、
そのうち、
「鳥だ」
「草だ」
「石だ」
「なにかだ」
みたいな、視界に入ったものをただ羅列していく、単調な独り言に変わっていった。


ただ人間とは不思議なもので、もう片方がダウナー状態に入ると、もう片方はアッパーになり、励ましだすのだ。
「ほら、もうちょっとだ!よっしゃ!

おれは自分でもわけのわからない「よっしゃ!」という言い慣れない言葉を連発したのだ。

そしてようやく、道が「そろそろだぞ、そろそろだぞ」みたいな雰囲気の開かれ方をしてきて、突然広場に出たのだ。
その先にいた、白い馬が。陣馬山の山頂のシンボルが。

 

陣馬山の頂上

陣馬山山頂の白い馬。疲労で写真が撮れなかったのでまたしても拾いました。

 

頂上の馬の周りには久しぶりの人間の姿があった。
売店が開いていた。
おばちゃんが優しい笑顔でラムネを売っていた。

この時の助かった感は、言葉にできないものがあった。
達成感より安堵のほうが強かった。

 

人がいない世界で体力を削られ疲弊していくというのは、それだけで結構な恐怖感を覚えるものだ。
なぜかおれは、ドラゴンヘッドとかアイアムアヒーローとかの世界にいったらこんな感情になるんだろうな、と思っていた。

帰る時見える道

そして八王子へ

頂上でたっぷり休憩をとり、おれらは陣馬山をくだり始めた。
正直、ここからはもう体はヘロヘロ、テンションはハイみたいな状態で、記憶があまり残っていない。

水分は大量に補給して心配なかったが、今度は日没が気にかかりだした。
出発から6時間という算段で出たものの、ただでさえ歩くのが遅いうえに、陣馬山頂上でたっぷりと休憩をとったせいで、15〜16時くらいの余談を許さぬ時間になっていた。

"びっびっビール"
"びっびっビール"
"びっびっビール"
そんなアル中のラマーズ法のような呼吸で、街への期待を胸におれは歩き続けた。

延々と続くは、登ったときと似たような山道だが、やはり帰りはテンションが違う。
日没への焦りもあるはあるが、足取りは軽かった。

で、最後の方のじゃり道を進むと森の道が開け、久方ぶりのアスファルトの道路があった。
乗る予定のバスの停留所があった。

「うああー着いたー着いたぞー生きて帰ったぞー」
どちらとともなく、歓喜、いや安堵の声が出た。

ふと彼女の姿を見ると、朝の森ガールぽいおしゃれさは消え失せ、まるで"もののけ姫"のようになっている。
だが泥で汚れて疲れて汗だくになった顔には、朝にはなかった満足げな笑顔があった。

そなたは美しい。

徐々に暮れゆく空の下で、そう思った。

彼女がもののけ姫なら、おれはアシタカか。
そう思って入ったトイレの鏡には、ジャングルから出てきた横井正一氏のような男が満足げな笑みで立っていた。

そして、おれと彼女は八王子行きのバスへ乗った。