厚かましい逞しい魂の詩人
詩を書いたことはなくとも、まぎれもなく詩人という人間はいる。
なんていうか、重ねてきた人生や人生観、雰囲気、人間性が詩を体現しているという、言葉に出さずに詩をつむぐタイプだ。
私の友人にもそんな男がひとりいる。
その本質的に詩人の男・ガロムが、初めて詩というか歌詞というかリリックを書いた。
初めて言葉に還元したのだ。
彼の当時の境遇と元々の人間性が反映された、暗く絶望的でありながらも、投げやりな前向きさとユーモアの混ざり合った味わい深い詩だった。
そして彼はその言葉を、ラップというかスポークンワードというか音読をして、テープ に収めた。
良い声だった。
そのテープは長らくおれの手元にあった。
パシフィカ とモノローグ とガロムの声
秋になり、やたらと活動的になってきたおれは、先日YAMAHAのパシフィカというエレキギターを買った。
で、そいつを録音しつつ練習しようとMTR(アナログチックなレコーダー)をベッド下から引っ張り出した。
そこにはかつての自分が録音したと思われる、シンセサイザーでの演奏が残っていた。
KORG Monologueという、じゃじゃ馬のような荒々しいうねりが特徴の名作シンセサイザーによるもので、それを乗りこなせないまま振り回されてたらなぜか好きな感じに仕上がってました。
といった感じの偶発性にあふれた曲だった。
「いいねえ」とおれは呟いた。
爽やかな秋空が広がる日曜、カーテンを閉めた薄暗い部屋で、その凶暴なシンセサイザーの音に買ったばかりのパシフィカのギターを重ねた。
不穏さにメロディーが付け加えられた。
「さらにいいねえ」おれはメガネを光らせた。
次にそのトラックへガロムの声をおもむろに重ねてみた。
「実にいいねえ」おれはにやりと笑った。外から見たらマッドサイエンティストだ。
まあとにかく、ガロムの感情の読み取れない声と真意の読み取れないリリックが、このトラックに実にマッチしていたのだ。
絵を世に出さない画家
おれはガロムにリリースの許可と、ジャケットにできる画像をくれと送った。
彼は作品を世に出さないタイプの天才画家でもある。
そして冒頭の画像である、不穏で陽気な謎の絵が送られてきた。
なぜか彼の故郷の風景とコラージュしてほしいとの要望があった。
今回の制作過程のすべてが理由不明なので、その流れに従い、理由を聞かずにおれはコラージュした。
そして準備は整い、おれはリリースした。
ではでは、おやすみなさい。