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新潮文庫の100冊から高校時代の私へこの5冊を

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新潮文庫の100冊といえばキュンタ君

夏に小説を読みたくなる理由

夏になるとなぜか小説を読みたくなる。
これはおそらく学生時代の記憶によるものだ。

夏休み直前、書店に並ぶ「ナツイチ」や「新潮文庫の100冊」といったキャンペーンのポップ。きらきらした夏の日差しに照らされるその光景は、セミの鳴き声やプールの水音同様に、これから始まるロングバケーション無限の可能性を感じさせるシンボルだった。
その時の高揚感が脳に根強く残っており、今なお夏と読書が密接にリンクしているのだろう。

でも若者に小説は危険である

とはいえ小説は危険だ。
追体験の濃度が高く、思想的な影響を受けやすいからだ。
受けまくった奴が言うから間違いない。

映画やマンガもそれなりに好きだが、やはり小説はひと味違う。登場人物との距離感が他の媒体と比べて桁はずれに近い。一人称の小説なんて、いわば意識の垂れ流しなわけで、そんな特殊な表現方法を可能とするものは小説以外にない。

昔から読書は偉いという謎の風潮があり、現に私も学生時代に本を読んでいて教師から褒められた記憶があるが、まったくもってちゃんちゃらぴゃんぴゃんだ。
名作と呼ばれる文学作品のほとんどがアンチ良識、反社会性を秘めている。
粘土のように柔らかかった私の脳みそは、夏休みの間に未知の清濁に触れてぐねぐねとおかしな形へ変えられていった。

それは捉え方によっては「成長」ともいえるが、どちらかというと幼虫が成虫へ移行する「変態」に近い。まさに文字通りの変化を遂げた。

キュンタ君

苦役列車を読んでそのイノセントな顔ができたら君は本物

新潮文庫の100冊2024作品一覧

話を戻そう。
夏で高まった読書欲に乗じて新潮文庫の100冊2024」の特設サイトを覗いてみた。
当然ながら今年の100冊のラインナップが出揃っていた。

100satsu.com

昔はこれを見ても、知らない小説家と作品名のオンパレードで、地元から離れた高校に入学したくらいの疎外感を覚えていた。
夏目漱石の名前を見て「同中の奴いた!」みたいな安心感を抱くレベルだ。

しかし今は違う。だらだらと読書歴を重ねてきただけはある。
「司馬先生!お元気でしたか!」「おっす、カフカ!」と完全に同窓会感覚でラインナップを眺めることができる。

で、せっかくなので、大人になった自分がどれくらい読んでいるかチェックすることにした。

○は「最後まで読んだことがある」
△は「途中まで読んだ記憶はある※出だしだけを含める」
無印は「完全に未読」
だ。

新潮文庫の100冊2024ラインナップ

新潮文庫の100冊2024ラインナップ

数えてみると○が27個、△が28個、無印が45個である。

まず気になるのは△(途中まで読んだ記憶はある※出だしだけを含める)の数の多さだ。
薄々気づいていたが、私は「合わない」と思ったらすぐに途中棄権する性質のようだ。
教養を積もうとは思っておらず、あくまで娯楽の一環として読み始めるので、このあたりの判断はシビアでスピーディーだ。
読書にもうちょっと忍耐を取り入れた方が良いかもしれない。

次に気になるのは、○の中でも内容を覚えていない本がかなり多いということ。自身の記憶力の無さにうんざりだ。
読破しているということは、その時は間違いなく楽しんだはずなのになぜ。
米澤穂信の「満願」なんて、読んだことを忘れて二冊目を買ってしまう失態を犯したからめっちゃ印象深い作品だが、にもかかわらずさっぱり内容が消えている。
ちなみに新潮文庫の紹介文を今読んだらめちゃくちゃ面白そうだった。僕に資格があるのならもう一度読ませてください。

「もういいんです」人を殺めた女は控訴を取り下げ、静かに刑に服したが……。
鮮やかな幕切れに真の動機が浮上する表題作をはじめ、恋人との復縁を望む主人公が訪れる「死人宿」、美しき中学生姉妹による官能と戦慄の「柘榴」、ビジネスマンが最悪の状況に直面する息詰まる傑作「万灯」他、「夜警」「関守」の全六篇を収録。史上初めての三冠を達成したミステリー短篇集の金字塔。山本周五郎賞受賞。

最後に気になるのは、超絶好きな作家が数名入っているだけにこのセレクトのもどかしさにクネクネしてしまうことだ。
さくらももこは「もものかんづめ」、宮本輝は「避暑地の猫」、村田沙耶香は「コンビニ人間」か「しろいろの街のその骨の体温の」がベストなんだけどなぁとクネクネしてしまう。
わかってる、もちろんわかってる。名作は人それぞれだし、なにより出版社の問題がある。新潮文庫の100冊だもの。大人なのでもう黙ります。

新潮文庫の100冊の中から選ぶおすすめの5冊

で、せっかくなので私が読了している27冊の中で、高校生の頃の私に勧めたいと思う小説を5冊ピックアップしてみようと思う。
当時の自分へのメッセージと共に。

楽園のカンヴァス原田マハ

ニューヨーク近代美術館のキュレーター、ティム・ブラウンはある日スイスの大邸宅に招かれる。そこで見たのは巨匠ルソーの名作「夢」に酷似した絵。持ち主は正しく真贋判定した者にこの絵を譲ると告げ、手がかりとなる謎の古書を読ませる。リミットは7日間。ライバルは日本人研究者・早川織絵。ルソーとピカソ、二人の天才がカンヴァスに籠めた想いとは――。山本周五郎賞受賞作。

もし高校時代のあなたがこれを読んだら「こんなにも上質なミステリー小説が世にあるのか」と驚くことでしょう。登場人物と共に過ごす濃密でスリリングな時間は、あなたに最高の読後感、贅沢な余韻をもたらします。
あなたは「ルソー最高や!」「ピカソかっけえ!」と叫び、あげく「キュレーターになりてえ!」とそのアカデミックでハイソな職業に魅了されて本を閉じます。まだ間に合うのでぜひキュレーターを目指してみてください。現在の私には無理な相談です。

ゴールデンスランバー伊坂幸太郎

衆人環視の中、首相が爆殺された。そして犯人は俺だと報道されている。なぜだ? 何が起こっているんだ? 俺はやっていない──。首相暗殺の濡れ衣をきせられ、巨大な陰謀に包囲された青年・青柳雅春。暴力も辞さぬ追手集団からの、孤独な必死の逃走。行く手に見え隠れする謎の人物達。運命の鍵を握る古い記憶の断片とビートルズのメロディ。スリル炸裂超弩級エンタテインメント巨編。

これを読んだあなたは「こんなに大風呂敷を広げて大丈夫か」と序盤数ページで驚くでしょう。でも大丈夫、伊坂幸太郎はいつだってきれいに伏線を回収してくれます。安心してページをめくってください。
ちなみにですが、伊坂幸太郎同様に「ビタミンF」の重松清も憎らしいほどに掌の上で踊らせてくれます。あまりに見事に踊らされるので逆に敬遠するようになったくらい凄いです。メンタルが持ちません。

苦役列車西村賢太

劣等感とやり場のない怒りを溜め、埠頭の冷凍倉庫で日雇い仕事を続ける北町貫多、19歳。将来への希望もなく、厄介な自意識を抱えて生きる日々を、苦役の従事と見立てた貫多の明日は――。現代文学私小説が逆襲を遂げた、第144回芥川賞受賞作。

正直、この小説は高校生のあなたに読ませたくありません。この生き様に美学と共感を抱いてしまうと社会的には確実に落ちていきます。罵倒のボキャブラリーも増えてしまいます。ただ、あなたがめちゃくちゃハマるのは間違いないです。全著作を購入する唯一の作家になるでしょう。

燃えよ剣司馬遼太郎

幕末の動乱期を新選組副長として剣に生き剣に死んだ男、土方歳三の華麗なまでに頑な生涯を描く。武州石田村の百姓の子“バラガキのトシ”は、生来の喧嘩好きと組織作りの天性によって、浪人や百姓上りの寄せ集めにすぎなかった新選組を、当時最強の人間集団へと作りあげ、己れも思い及ばなかった波紋を日本の歴史に投じてゆく。「竜馬がゆく」と並び、“幕末もの”の頂点をなす長編。

あなたはこの先「燃えよ剣」もしくは「竜馬がゆく」をバイブルとしている人間と何人も出会うことになります。それくらい現代においても影響力の強い作品です。
私が語る隙もないくらい語り尽くされた作品なので、とにかく黙って読んでください。

キッチン吉本ばなな

私がこの世でいちばん好きな場所は台所だと思う──祖母の死、突然の奇妙な同居、不自然であり、自然な日常を、まっすぐな感覚で受けとめ、人が死ぬことそして生きることを、世界が不思議な調和にみちていることを、淋しさと優しさの交錯の中で、あなたに語りかけ、国境も時もこえて読みつがれるロング・ベストセラー、待望の定本決定版。〈吉本ばなな〉のすべてはここから始まった。

高校生のあなたはこれを読んで拍子抜けします。轟く名声とはあまりにギャップのある低体温でポップな文章に「なぜこれがここまで評価を?」となり、ページをめくっては「で?」となり、最終ページにたどり着いて「で?」となる、まさに?マークだらけの頭で読み終えることとなります。
しかし読後、長きにわたり不思議な余韻は続きます。懐かしさと優しさと切なさが織りまざった、この本の中にしかない世界にまた戻りたくなります。
その後様々な読書体験を重ね、あなたは思います。「たしかにこれは名作だ」と。
出会うのが早すぎたねという名作は、この先結構な率であります。
ちなみに最近読んで、なんていうか「めっちゃシティポップ」「めっちゃ80年代後半」と思いました。ひどい感想ですが、大人になってもまあこんなもんです。

というわけで、今回は以上です。語りたい本は他にもあるのですがまたの機会に。
今日はおやすみなさい。
ではでは。