この丸メガネはミュージシャンなの?

音楽ブログを早々に諦め、ゆるめのサブカルブログへ男は舵をきった

幸福の奥義「精神勝利法」は迷えるメガネを救うのか

今週のお題「練習していること」

サングラスをかけた魯迅

私の師匠の生みの親、魯迅先生

はてなブログから出される今週のお題が「練習していること」だった。

エレキギターを始め、英会話だペン回しだと、長きにわたり練習していることはある。習熟具合は置いておこう。練習はしている。たまに撫でてはいる。

だが今おれが練習したいと関心を寄せている対象は別にある。
それは「精神勝利法」だ。

パッキパキ北京でバッキバキメガネに

精神勝利法。この言葉をおれが意識したのはつい最近のことだ。
この前読んだ綿矢りさ「パッキパキ北京」という小説の中に出てきたのだ。

あらすじを極限まであらくしていうと、元お水でポジティブお化けな姉ちゃんの北京滞在記である。

で、色んなことを経験した末、終盤で姉ちゃんは精神勝利法という奥義の存在を知るのだ。そしてその会得を決意する。

「決めた、私のこれからの人生目標」「シャネルが無くても完全勝利できる女になる」
「つまりさぁ、男も高級バッグも経歴も魅力も持ってないのに勝ってるのが、勝ってると完全に思い込んでる女が、一番強いんだよ。〜〜」
「精神勝利法を極めるの。こんな難しいことができる人、他にいる?」

この熱く語られる精神勝利法。読後、姉ちゃんにバッキバキに感化されたおれもこの勝利法を極めたいと、決意をフルーチェ程度に固めていた。

幸福の奥義・精神勝利法とは

で、肝心の精神勝利法とは何かということだが、これは魯迅作の「阿Q正伝という中国の超有名小説に登場する弱者の勝利法だ。
この小説の主人公・阿Qが編み出した技である。

一言でいえば「負けを自分の脳内で勝ったことに変える」という信じがたい大技なのである。

いやまず阿Q正伝なんて初めて聞いたよ!
そんな世界史の時間に魯迅の眉毛を濃くすることに熱心だった方々のために、あらすじを書いておきます。

【あらすじ】

清から中華民国へ変わろうとする辛亥革命の頃、ある村に本名すらはっきりしない、その日暮らしの阿Qという男がいた。
家も金も女もなく、おまけにブサイクという最底辺の男である。

しかし彼は「精神勝利法」という独自の思考法を作り上げていた。喧嘩に負けようが結果を都合よく勝利に脳内変換してしまう最強の技である。

ある日、阿Qは村のセレブである趙家の女中を口説こうとした結果、趙の主人の怒りを買って村八分になる。食えなくなり盗みを犯し逃亡同然の生活を続ける阿Q。
そんな時、近くに革命党がやってきた。阿Qはよくわからないまま勢いで革命に便乗し大騒ぎした結果、革命派の趙家略奪に関与した無実の容疑で逮捕される。

無知な阿Qは弁明すらままならず、そのまま刑場に引き出され、あっさり銃殺されてその生涯を終える。

まあこんな話である。

余談だが、おれは阿Q正伝を小学生の時に読破した。
べつに意識高い系のランドセルだったわけでなく、阿QのQという文字に「オバケのQ太郎」的なエンタメ性を感じて図書室で借りたのだ。

開始直後に「騙しやがったな」魯迅への怒りに震えた覚えがある。魯迅に怒りを覚えた小学生は日本初だろう。

(ちなみに出だしは魯迅がこの本のタイトルを阿Q正伝にしようか列伝にしようかとかうだうだ言うところから始まる)

とはいえ、なぜか読破してしまった。精神勝利法も言われりゃあったなそれくらいに薄っすら記憶に残っている。

なんでそんな印象的だったかというと、阿Qの悲劇を淡々と冷たく突き放して描く文章が、子供心にすごく恐ろしく感じたからだ。
それもそのはずで、魯迅はこの小説を「奴隷根性の染み付いた無知で無自覚で愚かな人民への警鐘」として書いたとのことである。村人どころか作者まで阿Qを見限ったところから始まっているのだ。

今気付いたが、これは闇金ウシジマくんと同じ手法だ。

精神勝利法を会得したいけど

とはいえ、そんな愚者の阿Qに対して魯迅は、愚かすぎて逆にすごい「精神勝利法」なる大技を授けてしまった。

この魅惑の秘技は現代人をも魅了する。というか現代人ほど魅了される。
何しろ脳内で勝ちを作り出す勝率100%の技だ。
並の人間なら、ブツをキメないと到達できない自己肯定感マックスの世界に、自身の思い込みだけでラリラリで突入することができるのだ。

正直いって阿Qすごいと思うし、師匠と呼びたいし、マニュアルに落とし込んどいてくれよと胸ぐらを掴みたいくらい羨ましい。

ちなみに師匠がどれくらいラリってるかというと、誰かをぶん殴りたいと思ったとき、布団の上で自分を殴ったら誰かを殴った気分になって幸せな気分で眠りにつけた、というレベルの高さだ。師匠なめんなよ。

というわけで、私は阿Qを師匠と呼んで、このアクロバティックな思考法を練習しながら、この冷たい世界を生きていこうと思った次第です。
もしくは誰か阿片をください。

ではでは。