ふとマスクをとると、夏の残り香と秋を伝える風とが黄金比率で混ざりあい、不規則なダンスを踊っていた。
秋だ。秋がきた。
去年もその前もたぶん書いているが、絶望的に夏の暑さに弱者である。
そのぶん夏の終わりにはテンションが上がり、同時に上記の通り、私は詩人となる。
夏は生命維持に必要な最小限の行動しかとりたくないのだが、秋から冬にかけては無駄で無益な行為に力を注ぐエネルギーが湧いてくる。
そして無駄と無益の中に、文化と芸術は宿る。
昔観たモーツァルトの映画で、モーツァルトの恋人が「良い曲を作りたいなら働いたらだめよん」と言ってた気がする。
村上春樹も「良い文章を書こうとしたら貴族になるしかない」的なことをどっかで書いていた気がする。
どちらもうろ覚えだが、調べだすとブログを書かなくなるので調べない。
まあ要するに、生活と切り離した人生の余剰の先に芸術的表現は転がっているのだ。
というように秋を迎えた私は、数ヶ月ぶりにエネルギッシュで、そのエネルギーが無駄と思われそうなクリエイティブ行為に向かっている。
今日は「100年前のコンバース ALL STAR」を作った。
僕は白いハイカットのコンバース オールスターを買った。
前回の通り、コンバースのスニーカー「ジャックパーセルのミッドカット」が欲しいものの、なんと販売中止となっていた。
収まりのつかないコンバース欲に侵されたおれは、やむなくハイカットのオールスターを購入することにした。
ブラックのオールスターは持っていたので、今回は人生初のホワイトを選択だ。
余談だが、ジャックパーセル氏もチャックテイラー氏(オールスターのパッチにサインがある人)も、名前は知れども顔を知らない。
スタンスミスの似顔絵の偉大さをいつもここで思い知る。
で、今回買ったのは、超定番モデルではなく「オールスター 100カラーズ」というシリーズのものだ。
これはオールスター100周年を記念して企画されたモデルで、ルックスは定番ラインとほぼ同じながら、インソールやらアウトソールやらに手が加えられていて、めっちゃ履きやすく耐久性も上がっているモデルである。
しかも、なぜかどえらい値下げをされてバカスカ売られている。
機能性とコスパで即決だった。
そして、すぐにそれは届いた。
僕は白いハイカットのコンバースを汚した。
眩いまでに白く無垢なコンバース・オールスター。
まるでウエディングドレスのように美しい。
しかし前回で散々触れたように、カート・コバーンによってグランジファッション(ボロボロな感じの退廃的なファッション)の熱に火がついた心は、このクリーンなコンバースを良しとはしなかった。
おれが履きたいのは、教会と賛美歌が似合うような汚れなきコンバースではない。
髪を赤く染めて、場末のバーで酔い潰れて、一人称が「あたい」になったようなクラシックなやさぐれ感のあるコンバースだ。
100年、いや1000年前の引くほどボロボロになったコンバースを目指して、おれはこの無垢のスニーカーを汚す背徳的な行為に出た。
100年前のスニーカーができあがった。
そしてそれは完成した。
苦心の果てにできあがったコンバース・オールスターがこれだ。
……予想を上回るなかなかのダーティー具合である。
今のところ作業を終えた達成感もあって満足はしているが、明日もこの熱を維持できるかわからないのが正直なところだ。
「ボロボロでかっこいいよ」
そうは思っている。
が、かっこいいほど曖昧な概念はないことも知っている。
「買ったときより今のほうがいいよ」
そうも思っている。
が、そう思いたいところが大きくあることも知っている。
まあもうデロリアンがないと戻せないししょうがない。
少なくともグランジ的かどうかでいえば、間違いなくスタート地点よりグランジってはいる。
「徐々に汚くなるなら、一瞬で汚れたい」
脳内カート・コバーンもそう言って慰めてくれてるわ。
僕はこの方法でコンバースを汚した
いちおう、自分と同じ美的感覚を持っている世のカート・コバーン達のためにどうやって作ったかだけ書き残しておきます。
用意したのは、以下のグッズである。
・靴クリーム(黒)
・紙やすり
・マッキー(赤、緑、青)
・下駄箱のくつ
①黒ずませる
まずは薄く、本当うすーくタオルに広げた黒いクリームで、全体にうっすら汚れをつけていく。
これを繰り返すことで、自然な感じに黒ずんでいく。
ここで上手く汚すことができれば、もう8割方は成功したも同然だ。
②傷をつける
「人のだったら絶対触りたくねえな」
そう思うくらいまで汚すことができたら、今度は紙やすりをかけて毛羽立ちをつけたりゴムソール部分に傷をつけていく。
これも一発でキメようとせず、軽く複数回に分けて行うのがコツだ。
③アクセントの色味をつける
ひとしきり傷をつけ終わったら、マッキー(油性絵具も可)を指先に塗り、それをこすりつけてアクセントとなる色味を追加していく。
これはわかるかわからないかレベルでOKだ。
不思議なもので一色だけだと薄く塗っても悪目立ちするのだが、赤・緑・青のRGBを重ねていくとナチュラルに馴染み、隠し味的な風味をスニーカーにもたらしてくれる。
もちろん際立つ分、あえて一色でアクセントをつけるのも効果的だ。
今回やりながら気づいたが、赤だけだと「鼻血がたれ落ちた感じ」、青や緑だと「なんかカビっぽい感じ」が演出できる。なんだその演出。
③仕上げに踏む
で、仕上げに既存の下駄箱にある先輩スニーカー達で、新入りオールスターを踏みつける。
これは実際の汚れと傷をつけることでナチュラルな風合いを出す意味と、
スラムダンクから広がった「ケガをしない為のゲン担ぎ」を一人で行う儀式のふたつの意味あいがある。
正直、他人に新品のエアジョーダンとか踏まれたら、木暮くんのメガネを割るくらいムカつくだろうけど、自分でやる分には全然OKってとこに人間のエゴの不思議さを思います。
ではでは、良いスニーカーライフを。
今日はおやすみなさい。