この丸メガネはミュージシャンなの?

音楽ブログを早々に諦め、ゆるめのサブカルブログへ男は舵をきった

なめだるまにはまるめがね

舐達麻の写真

回文のように見せかけて、よく見るとまったく成立してない文章ってイラっとするよなあと思いながらタイトルを書いた私が、最近すごい頻度で聴いているアーティストがいる。

それが舐達麻(なめだるま)だ。
埼玉は熊谷発の3人組のヒップホップクルーである。

舐達麻の魅力を語りたい

過去の犯罪、そして逮捕。ブレイク前に逮捕、さらにブレイクしても逮捕と、とにかくゴシップ要素先行で語られることの多いグループだが、その作品のクオリティが尋常じゃなく高く、単純に音楽的な魅力で中毒になってしまった。

やばいと思うくらい良い。
それもちょっとやばいどころじゃなく、めちゃくちゃやばいくらい良い。
これが日本の音楽史上にクラシックとして残らなかったら嘘だろとさえ思っている。

とはいえ、いつもの喫煙所で人に勧めようと喋りだすと、どうしてもそのゴシップ要素をフックにしてしまうおれがいる。

大麻栽培・不法所持、ばっきばきの和彫タトゥー、金庫破り、逃亡の末の仲間の死、刑務所…とキャッチーなイリーガル要素のオンパレードなので、興味を引くためにまずそこを喋ってしまうのだ。

で、そこらへんまで喋ると、相手の目が「はいはいワルなのね、そういうの好きなのねーん」みたいになっていることが多々ある。

アマプラで孤狼の血を観た後、急に広島弁を喋り出した文化系メガネ(おれ)に向けられた、あの日と同じ眼差しの再来だ。

そもそも、舐達麻の「なめ」をおれが出したくらいで、すでに薄ら笑われているような気がする。文字通り舐めメガネされてる気がする。とても悔しい。どこが文字通りだ。

まあとにかく言いたいことはひとつで、ゴシップ要素に惑わされがちだけど、舐達麻の作る音楽は本物ってことだ。

先ほどの犯罪歴やハードコアなライフスタイルは、舐達麻のリリックのほぼすべてに共通したテーマであるが、それがアウトサイダーの武勇伝にならず、アート・文学のレベルまで昇華できているところが舐達麻の凄いところだと思う。

要するに、同じ経験を他のラッパーがしてても、絶対あのレベルの音楽は作れんぞってことだ。

いくつかインタビューを見て納得したが、実質的なリーダー・バダサイが見せる楽曲クオリティへのストイックさは、ちょっとヒップホップ界隈では聞いたことがないレベルで高い。
ライブより良い音源作りに意識が向いているあたりガチのクリエイター気質だし、そういう人間が作る音楽は信頼でき、間違いなく面白い。

今日のこれは、おれが舐達麻のどこに惚れ込んでいるかの整理・再確認と、次回の喫煙所プレゼンで失敗しないためのほぼ自分用舐達麻考察である。

過去の犯罪など実話ナックルズ的な話は控えめなので悪しからず。デルタナインのぜんざいの話もしません。

【舐達麻】

埼玉県熊谷市を拠点に活動するヒップホップクルー。
現在活動中のメンバーはBADSAIKUSH(バダサイクッシュ)、G-PLANTS(ジープランツ)、DELTA9KID(デルタナインキッド)の3名。
他に現在行方不明のD BUBBLES(ディーバブルス)、金庫破りの逃走中に死亡した104がいる。
ビートメイカーGREEN ASSASSIN DOLLAR(グリーンアサシンダラー)がほとんどの楽曲のプロデュースを手掛けた「GODBREATH BUDDHACESS」で一躍トップランカーとなり、その後もBUDS MONTAGEなどヒットを続ける。
チルさとエモーショナルさを兼ね備えた上質なビートに、退廃的でスリリングな唯一無二のリリックを乗せるスタイルで日本のヒップホップ界にその名を轟かせている。

 

舐達麻のメンバー写真

左からDELTA9KID、BADSAIKUSH、G-PLANTS

舐達麻の魅力1:メンバー三者三様の声とフロー

舐達麻は、3人のメンバーが16小節ずつマイクリレーで繋いでいくスタイルがメインで、それぞれのフローと声に特色があり、この形がとにかく絶妙に機能している。

ビートはいわゆるチル系のループで単調なのだが、3人が繋いでいくことで音に頼らずとも鮮やかに変化を起こせ、5分間飽きずに聴いていられるのだ。

ほんと今の3人のバランスが良すぎて、他が入れない、てか入らなくていい感じだ。

正直オリジナルメンバーのD BUBBLESがいた時より今のほうがいいし、曲のクオリティだけを考えたらfeat.も必要ないと思う。
あのアナーキーでさえ、部室で3人が仲良くタバコ吸ってたら面倒な先輩が来ちゃったよみたいな空気になってるもの。

で、下記はメンバーそれぞれのフローの特色。

BADSAIKUSH

トップで曲のバースを担当することが多い。
緊張感と説得力たっぷりのガサガサの声で、まあハードな世界観を作るのがめちゃくちゃにうまい。
フローも独特で、ときにリズムなんてクソなもん知るかってくらいに喋り言葉に近く、矢継ぎ早に言葉を叩きつけるストロングスタイル。
なんていうか、ずっと胸ぐらを掴まれて恫喝されているようなスリリングな快感が走る。
曲前の咳払いがトレードマークで、その咳が聞こえると熊谷のロードサイドと煙ったい部屋が脳裏に浮かぶ。
そしてこの咳払いの癖は異常なほどマネしたくなる

G-PLANTS

曲のバースとフックどちらも担当する。
フロー・韻の踏み方共に、3人の中では1番オーソドックスで安定感抜群。
バダサイとデルタナインがかなり独特なフローなので、ジープランツが出てくると曲に一気にオールドスクール感が出て安心する、
ルックスしかり、一番ヒップホップを体現している。
3人ともそうだが、中でも一番顔と声が合っている

DELTA9KID

ジープランツ同様に、曲のバースとフックどちらも担当する。
とにかく声がハッとするほど華やか、かつイノセントな響きをしていて耳が奪われる。
フローも流れるように軽やかで、とにかく和彫刺青の男が奏でるリズム感じゃない。
音楽的な要素でいうと、デルタナインキッドの声で数段曲のレベルを引き上げている気がする。
それは特に最大のヒット「BUDS MONTAGE」のフックで顕著。

 

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舐達麻の魅力2:びっくりするくらい文学性の高いリリック

これは本当に凄い。

テーマはほぼ大麻関係をメインとした退廃的なライフタイルなのだが、これがリリカルな表現で文学的といっていい異常な完成度に達している。
冒頭でも書いたが、並のワルが同じ経験をしても、絶対にたどり着けないレベルのリリックだ。

バダサイのリリックは過激でありながら、どこか他人事のように距離を置くフィルターがあり、それが妙に冷たい清潔感を生んでいる。
また3人の中でもっとも具体的な情景描写が多く、舐達麻の曲のストーリーテラー的役割も担っている。
バダサイとはつまり舐達麻そのもの、と言っていいくらい、舐達麻の世界観はこの人のリリックが作っている。
少年院で村上龍の「限りなく透明に近いブルー」を読んで感銘を受けたとどっかの記事で見たが、すごく納得。

ジープランツはフロー同様にオーソドックスな固い韻の踏み方をしてくる。オールドスクールなヒップホップの快感を一番わかりやすく感じさせるスタイルで、たぶんそれ故にフックを担当することも多い。韻を踏む過程の独特のユーモアも彼ならでは。

デルタナインのリリックはとにかく叙情的で、本当どこでこんな美しい言葉を覚えたのかしらというくらい詩的さにあふれている。
100MILLIONSでの、逮捕前の大麻摂取の様子を恋人との別れになぞらえるところなんて、大麻史上もっとも感動的なくだりだよ。

舐達麻の魅力3:GREEN ASSASSIN DOLLARのビートが良すぎる

最近の舐達麻の曲のほとんどを手掛けるトラックメイカーがGREEN ASSASSIN DOLLAR(グリーンアサシンダラー)だ。

バダサイのビート選びへのこだわりは偏執的で、とにかく超絶にやばいと思えるビートありきでリリックを綴るらしい。
で、そのバダサイから、伝説的なトラックメイカー・Nujabesを超えていると評された彼の作るビートは、とにかくレベルが高い。

心地よさ、切なさ、あとなんていうか独特の苦味とモダンさのある超上質なビートの上で、一見真逆のような舐達麻のハードなリリックはドラマティックに映える

昔派遣先で出会った名も知らぬおっさんの「フォーマルスーツはやばい奴が一番似合うんだよお」という謎の名言を久々に思い出したが、本当にそんな感じの絶妙なマリアージュだ。

舐達麻の魅力4:日本人で良かった

どうしたメガネ、と同僚から驚きかねないすごい熱意で一気に語ってしまったけど、最後にここが超絶に格好いいと言いたいのは、フロー、リリック、選ぶビートに至るまで、流行を度外視して自らの美意識を貫いて売れたことだ。

おれはヒップホップからロックに至るまで洋楽は好きだけど、それでもトラップ的なビートやサウスアメリカ独特のフローに日本語を替え歌みたいに乗せるスタイルは、自分アメリカの犬っすって宣言してるみたいで泣けてくるし、それじゃあ一生勝てねえよと思うので、この日本語独自のフロー、文学的表現が炸裂した舐達麻には痺れた。

触れる前は予想もしていなかったけれど、舐達麻聴くとやっぱり日本語って凄いなと思うし、この感覚味わえるのはリリックが母国語だからだよなと思うし、それをまさかヒップホップで感じる時がくるとは思わなかったので、本当に衝撃だったし嬉しくなったのである。

すごいわ舐達麻。

嬉しくなったところで吾輩は寝るである。

ではでは。おやすみなさい。