この丸メガネはミュージシャンなの?

音楽ブログを早々に諦め、ゆるめのサブカルブログへ男は舵をきった

よし、今日こそエレキギターを買おうじゃないか

ギター選びは一生してたいほど楽しい

友人のギタリスト・死怒靡瀉酢(シドビシャス)とマイファースト楽器となるエレキギターを買いに訪れたシマムラ楽器。

前回イシバシ楽器を訪れた際は、その無知さゆえに、ちゃらい金髪のキツネ顔の店員に舌打ちされそうな表情でため息をつかれそうになり(被害妄想)、ワタワタ逃げてきてしまった。

今日はそうはいかない。
楽器屋を変えてリベンジだ。
おれの隣にはギタリストの死怒が慣れたたたずまいで楽器を眺めていて心強い。

楽器屋で起こりうる恐怖のイベント、「弾いてみますか?」がきても、こいつに全投げすればよい。
そして何より、おれはBECKを読んで、ギターの種類とその特徴という智慧を授かって来ている。
どんな質問がきても、色をつけてアンサーできるくらい自信がある。
つまり盤石の体勢ってことだ。


しかしやはり吊るされたギターは壮観だ。なんていうか理屈なしにワクワクしてくる。別に弾けなくてもいいからギターが欲しくなる。ヨダレを垂らす寸前だ。いや垂らしたかもしれない。死怒はちょいケーブル見てくるわと言って去っていった。

前回と同じように、エロい顔で壁に吊るされまくったギターを見ていると、シマムラ楽器の店員が近づいてきた。
「なにをお探しですか?」
店員を見ておれは驚いた。
その店員は、チャラい人間の男にキツネが化けてみました、みたいな顔をしていた。
イシバシ楽器にいたキツネ店員と双子といっていい激似っぷりだ。違うのは髪型くらいのもんだ。

父さん、東京の楽器屋はキツネに牛耳られていました。

そう純くんの声でナレーションを始めたおれに、
「気になるのあったら弾いてみてくださいね」
とキツネは優しく恐ろしいことを言ってきた。


ぼやぼやしてるとキツネが「これなんかオススメっすよ」とか言いながらギターをおろしてきそうな気がしたので、おれはシド(漢字変換が面倒くさいからもうカタカナでいく)を慌てて探した。


楽器店にいるだけで、なんか勝った気分になるぜ!!!いち・に・フェン・ダー!!!!!!

Fender/Gibson/P.R.S
ギターはぶっ壊したくなるほど高かった

「で、今日、なに買うの?」とケーブルを手に取りながらシド。
「やー決めてないけど逆になにがいいと思う?」
「どんな音楽やりたいん?」
「あー、ゆ、UKロック、的な?」
「なんで疑問形なんだよ?」
「いま疑問形だけで会話が進んでないか?」
「てか的ってなんだよ、的って?」
レディオヘッド的なやつだよ。あとミクスチャーもやりたい」
「よくわかんねえけど、それならフェンダーだな。テレキャスストラトだな」
「なんで?」
「なんかフェンダー的な音だろ、たぶん、イメージしてるのは」
「ほほうフェンダーね、ちなみにフェンダー作ったフェンダーさんって楽器弾けなかったらしいぞ?」
「どうでもいいわ。ちなみにいくら持ってんの?」
「3万」
「おいバカふぁっきんバカ」
フェンダーってそんな高いの? ギター弾けない奴が作ってんのに!?」
「3万は絶望的だよ」
「じゃあギブソンいくか」
「ふぁっっきんカスがぁ!」
「マジかよ」
「マジだよ、3万じゃギブソソも買えねえわ。−−いやギブソソってなに?」
「え、じゃあおれ逆になにが買えんの?」
「ギブソソ」
「ギブソソか…」


「らちがあかねえ、ファッキンカスが!」とシド・ビシャスっぽい言葉を吐きながら、シドはおれをギター売り場まで連れて行き、値札という現実を見せてきた。

Gibson USA / Les Paul  価格:279,800円(税込) 
P.R.S. Custom 価格:518,400円(税込)
Fender USA / American Performer Stratocaster 価格:143,856円(税込)

おれは驚いた。
貧者であり弱者の為の音楽の道具に、セレブ的な額がつけられている。
「商業主義の豚みたいな値段だな」
「これが現実だ、プアー」
「黄色い暴動を起こしたい」
ジョン・レノンみたいな丸メガネつけてるくせに」
「ジョンだってこの値段みたらキレるわ」
「どうする? ぞうさんギターでも買って帰るか?」
「店員を殴打しかねないからやめる。てかギターやめる」
「そうだな。帰りにトイザらスオタマトーンでも買いなさい」
「そうするわ」


おれは怒りと絶望で帰路につこうとした。
そこへ間が悪く、キツネ店員がやってきた。
「なにかお探しですか? フェンダーフェアやってるんで、よかったら」
おれにはもうプライドもなにも残っていなかった。
「いや、おれ3万しかないんで」
「ああー、いや3万で買えますよ、フェンダー
「え?」
その時シドが、その手があったかと手を叩いた。
「店員さん、つまりジャパンってことですよね?」
店員はニヤリと笑った。
「はい、ジャプァーンです」

なぜ郷ひろみっぽい発音をしたんだと思いながら、なにもわからない状態でおれは店員に導かれるまま、店の奥へと進んでいった。